「あのとき買ったマルノコ、そういえば最後に回したのはいつだったか」
ガレージの棚を見上げて、そこで手が止まる。
黄ばんだ箱、埃をかぶったケース、何が入っているか思い出せない引き出し。
心当たりのある方は多いはずです。
真壁徹です。
整備工場に25年いて、道具に食わせてもらってきました。
引退した先輩の工具一式が廃品回収に出されかけたのを見て以来、道具を寝かせたまま腐らせることに我慢がならなくなりました。
この記事では、買った工具のうち実際に使っているのは何割なのかを自分の手で数える方法と、残す・手放すを決める判定の仕方を書きます。
捨て方の話ではありません。
判定するところまでが今日の本題です。
目次
買った工具の何割を使ったか、答えられる人はいない
まず、はっきりさせておきます。
「DIYで買った工具の何割が使われずに眠っているか」を示す統計は、公的機関にも業界団体にも存在しません。
私も探しましたが、見つかりませんでした。
断定した数字を書いている記事があったら、その出どころを疑ってください。
分かっているのは、ブームの山があったという事実のほうです。
日本DIY・ホームセンター協会が公表している推計値では、ホームセンターの年間総売上高は2020年に4兆2,680億円となり、前年比7.0%増で初めて4兆円を超えました。
その後は2021年に4兆760億円、2023年には3兆9,750億円まで戻っています。
家にこもっていた時期に、家まわりの道具が一気に売れた。
そして数年かけて、その熱は静かに引いていった。
数字が語っているのはそれだけですが、あの時期にインパクトドライバーや丸ノコを買った人が多かったのは間違いありません。
眠っているモノの金額なら、目安がある
工具に限った死蔵率は分かりませんが、家庭に眠るモノ全体の調査ならあります。
メルカリが2025年11月に公表した「かくれ資産」調査では、1年以上使っておらず理由なく家に保管されているモノの価値が、1人あたり平均71.5万円と推計されています。
10代から60代の男女2,400人への調査で、監修はニッセイ基礎研究所です。
面白いのは年代別の差です。
60代は約100.7万円で、20代の約48.8万円のおよそ2倍。
長く生きた分だけ、モノが溜まる。
当たり前ですが、ガレージを持っている世代がまさにここに重なります。
なお、この調査にカテゴリーとして「工具」の項目はありません。
メルカリの平均取引価格で換算した推計値でもあります。
だから工具の話に直接あてはめることはできませんが、「1年以上使っていないモノ」がどれだけ積み上がるかの相場観としては使えます。
割合は、自分のガレージでしか出ない
ここから先は統計の出番ではありません。
自分の工具箱を開けて、数えるだけです。
私は自分の道具に「稼働率」という言葉を使っています。
持っている工具のうち、この1年で1回でも手に取ったものが何本あるか。
それを全体の本数で割った数字です。
整備の現場を離れてから初めてこれをやったとき、私の稼働率は6割を切っていました。
25年やってきた人間でこれです。
趣味で買い揃えた道具なら、もっと低く出てもおかしくありません。
落ち込む必要はなく、数えたという事実のほうに意味があります。
棚卸しは引き出し1段から始める
ガレージ整理で挫折する理由は、いつも同じです。
休日に全部出そうとして、昼過ぎに疲れ果て、夕方には元に戻す。
私も何度もやりました。
だから今日は、引き出し1段だけにしてください。
工具箱の上の段、棚の一区画、それだけです。
30分で終わる範囲に区切ると、続きます。
箱を3つ用意して放り込む
区画を決めたら、床に段ボールを3つ並べます。
- この1年で使ったもの
- 1年は使っていないが、持っている理由を説明できるもの
- 存在自体を忘れていたもの
出したそばから、考えずに放り込んでください。
迷ったら2番目の箱です。
考え込むと手が止まりますし、この段階では判定をしません。
3番目の箱、つまり忘れていたものが、あなたの稼働率を下げている本体です。
ここが一番厚くなる人ほど、棚卸しの効果は大きく出ます。
知人の工場でキャビネットを1段ずつこの方法でやったことがあります。
3番目の箱に入ったのは、同じ規格のスパナが3本、用途の分からないアタッチメント、通電しない充電器。
本人は「こんなもん買った覚えがない」と笑っていましたが、その中に値のつく工具が何本も混ざっていました。
忘れられていた道具ほど、使われていない分だけ状態が良かったりします。
台帳はスマホの写真とメモで足りる
きちんとした管理表を作ろうとすると、また挫折します。
スマホで撮って、メモアプリに数行書けば十分です。
記録する項目は次の6つに絞ります。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 工具名 | 充電インパクトドライバ |
| メーカー・型番 | 本体の銘板を撮影して転記 |
| 買った時期 | 2021年春 |
| 最後に使った記憶 | 2023年の棚づくり |
| この1年の使用回数 | 0回 |
| 借りられるか | ホームセンターでレンタルあり |
この一覧があると、重複購入が止まります。
「あれ、6角の5.5持ってたかな」と迷ってまた買う。
工具好きなら誰でも通る道ですが、写真の一覧を見れば数秒で片がつきます。
そしてもう一つ。
場所を食っているのは本体より消耗品と付属品です。
使いかけの刃、規格の合わないビット、袋が破れたビス、いつか使う端材。
本体の判定と同時に、この山にも手を入れてください。
残すか手放すかは「使用頻度」と「借りられるか」で決める
さて、ここが判定です。
「1年使わなかったら手放す」という話をよく見ますが、工具にそのまま当てはめると必ず後悔します。
年1回しか出番がなくても、その1回に代わりがきかない道具があるからです。
私が使っているのは2つの軸です。
使用頻度と、必要になったときに借りられるか。
この掛け合わせで4つに分かれます。
| 借りられる・代わりがきく | 借りられない・代わりがない | |
|---|---|---|
| 年に数回以上使う | 残す | 残す |
| 1年以上使っていない | 手放す | 保留箱へ |
年1回でも残す側に入るのは、トルクレンチ、特殊ソケット、車種専用工具、自分の手に馴染んだハンドツールです。
必要になったその日に手に入らないものは、持っている意味があります。
反対に、月1回使っていても手放していい工具もあります。
高圧洗浄機、耕運機、タイル切断機、大型の電動工具。
ホームセンターのレンタルで1日数百円から借りられるものは、置き場所と維持の手間のほうが高くつきます。
ガレージの1畳分が家賃に換算していくらか、一度計算してみてください。
判定で手が止まる一番の理由は、頻度でも用途でもなく、買った金額です。
3万円出したインパクトドライバーを数千円で手放すのは、買い物の失敗を認めるようで気分が悪い。
ただ、その3万円はもう戻りません。
今日決めるのは、これからどうするかだけです。
使わないまま置いていても1円も戻らないのですから、値がつくうちに動かしたほうが、損は確実に小さくなります。
保留箱には日付を書く
「いつか使うかもしれない」は、無視していい迷いではありません。
捨てた翌週に限って必要になる。
あれは本当に起こります。
だから保留箱を認めます。
ただし、ルールを一つだけ付けます。
ふたに今日の日付を大きく書いて、次の棚卸しまで一度も開けなかったら、中身は迷わず手放す。
それだけで「いつか」に期限がつきます。
親の工具や、亡くなった職人仲間から譲り受けた道具は、この判定の外に置いてください。
無理に数えなくていい。
手が止まるのは当たり前ですし、全部残す必要もありません。
一番使い込まれた1本だけ形見として残して、あとは使う人のところへ送る。
それで筋は通ります。
寝かせている間に、工具の価値は落ちていく
棚卸しを今やる理由は、置いておくだけで道具が傷むからです。
とくに充電工具のバッテリーは、使わなくても劣化します。
数年放置したものは充電器に載せても反応せず、そのまま復活しないことがあります。
安全の面でも見過ごせません。
NITE(製品評価技術基盤機構)が2025年6月に公表した注意喚起によると、2020年から2024年までの5年間に通知されたリチウムイオン電池搭載製品の事故は1,860件で、その約85%にあたる1,587件が火災事故に発展しています。
製品別で見ると、電動工具は171件です。
事故は6月から8月に集中し、8月だけで201件。
夏場のガレージや物置がどれだけ暑くなるかを思えば、放置の危うさが分かります。
とくに気をつけたいのが、膨らんだ電池です。
同機構は、膨らんだ電池の内部には可燃性ガスがたまっており、強い衝撃や外力が加わって内部部品が破損した場合などに発火するおそれがあると注意を促しています。
次のような症状が出ていたら、使用も充電もやめてください。
- 充電できない
- 充電中に以前よりも熱くなる
- 膨らんで、変形している
- 落とす、ぶつけるなどで一部が変形している
- 不意に電源が切れる
残すと決めたバッテリーの保管方法は、メーカーによって書きぶりが違います。
充電して保管とするメーカーもあれば、満充電で保管と明記するメーカーもある。
ネット上には50%程度で保管という説も流れていますが、国内主要メーカーの日本語の公式ページにその記載は見当たりませんでした。
手元の取扱説明書を開いて、そこに書いてある通りにするのが確実です。
金属部分は湿気にやられます。
一般に、金属表面の水膜は湿度が60%を超えると急に厚くなり、腐食が進みやすくなるとされています。
密閉できる箱に除湿剤を放り込み、湿度計を1つ置く。
数百円の手間で、数万円の工具を守れます。
工具は型番が新しいうちほど値がつきます。
バッテリーが生きていて、充電器とケースがそろっていれば、なおさらです。
寝かせている時間は、そのまま査定額を削っています。
仕分けたあとの出口を、その日のうちに決める
棚卸しで一番危ないのは、判定した箱をそのまま床に置いて解散することです。
1週間もすれば、箱ごと元の場所に戻ります。
判定と実行は同じ日にやってください。
手放すと決めたものの行き先は、だいたい4つです。
- 使う相手が思い浮かぶなら、その人に譲る
- 動作するプロ向けブランドの電動工具は、まとめて買取に出す
- 動かない充電池は、リサイクル回収へ
- どこにも回せないものだけ、自治体の指示に従って処分する
充電池は本体から外して出します。
一般社団法人JBRCの回収の流れによれば、回収対象になるのは会員企業製で電池の種類が明確なもので、破損や水濡れ、膨張などの異常がある電池は対象外です。
持ち込む前にプラス極とマイナス極を絶縁テープでふさぐことも求められています。
同サイトには協力店と協力自治体の検索ページがあるので、近所の回収拠点を先に調べておくと、その日のうちに片がつきます。
買取に出す分は、型番の写真、付属品の有無、動作の確認、この3つをそろえてから査定に出します。
本体だけとフルセットでは金額が変わりますし、バッテリーが生きているかどうかも見られます。
まとめて出すときは、同じメーカーで固めて並べてください。
バッテリーと充電器は本体と組にして、動くものと動かないものを分けておく。
査定は1点ずつ見て値を積み上げる作業なので、こちらで仕分けが済んでいるだけで話が早く進みます。
どの型番にいくらつくかという相場の話は、当ブログの電動工具の買取相場の記事にまとめてありますので、そちらを見てください。
最後に、次の棚卸しの日をカレンダーに入れます。
私は毎年11月と決めています。
年末の粗大ごみが混み合う前で、車のタイヤ交換とも重なるからです。
年1回、引き出し1段からでいい。
決めた日にやると決めておけば、ガレージが元に戻ることはありません。
まとめ
買った工具の何割を使っているか。
この問いに答えられる統計はありませんが、自分のガレージでなら数えられます。
引き出し1段を空けて、3つの箱に分けて、この1年で手に取ったものを数える。
それだけで稼働率が出ます。
判定は使用頻度だけで決めず、借りられるかどうかを掛け合わせてください。
年1回でも代わりがない工具は残し、月1回使っていても借りられる大物は手放す。
迷ったものは保留箱に入れて、ふたに日付を書く。
そして、寝かせるほど価値は落ちます。
バッテリーは使わなくても傷み、金属は湿気で錆び、型番は古くなる。
今日の30分で引き出しを1段、開けてみてください。
道具は、使う人のもとにあってこそです。
自分で使い切るか、手入れして残すか、次の使い手に渡すか。
どれを選んでも、決めてやることが道具への礼儀だと思っています。